全酪新報/2022年8月1日号
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「飲用・はっ酵乳向け乳価1㌔10円値上げ、関東生乳販連が期中改定で大手3社と合意」――11月1日出荷分より
関東生乳販連は7月20日、飲用向けとはっ酵乳向けの乳価を1㌔当たり10円値上げすることで大手乳業メーカー3社と合意した。11月1日出荷分より適用する。配合飼料や輸入乾牧草など生産資材価格の高騰により困窮する生産現場の現状を受けて期中での改定を行った。今後はその他取引先乳業との合意に向け交渉を進めるとともに、学乳向けも今後の改定に向け引き続き協議する方針だ。-詳細は全酪新報にてご覧ください-
お断り=本記事は8月1日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「関東生乳販連の菊池会長、関係者の連携が重要」――値上げ後の影響に言及
2022年度生産者乳価の期中改定をめぐり、関東生乳販連の菊池一郎会長は20日の記者会見で、大手乳業3社とのこれまでの交渉経緯を説明した。飼料の高騰等を背景に生産現場が大きく疲弊している現状を受け、出来るだけ早期の合意を目指して交渉を進めたと報告した一方、乳価値上げに伴い懸念される一層の需給緩和も含めた今後の対応策について「この難局を乗り切るためにも国やJミルク、中酪、乳業メーカーや指定団体、生産者が連携して検討・対応していく必要がある」と強調した。
また、今回決定した乳価値上げに関して「厳しい交渉の結果として10円の回答をいただいたが、これで合意できないと年内に合意できない可能性もあった。理事会においても、生産現場が疲弊している状況を考えると10円で早急に回答してほしいという意見が全てだった」と説明した上で、「(酪農の将来を踏まえて)今だけ乳価が上がればいいという訳ではないのは理解いただきたい。自分達も我慢できるところは我慢して頑張りたい」との考えを示した。
「不足分は国の支援必要」全酪連の隈部会長、乳価期中改定で――生産者も経営に努力
11月からの生産者乳価値上げについて、全酪連の隈部洋会長は「期中、10円の値上げとなったが、生産コスト上昇を補うには不十分。不足分については国からの支援も必要」と述べ、現在酪農家が直面している生産費高騰を補うには政府のさらなる支援が必要との見方を示した。全酪連が7月28日に都内で開いた通常総会の冒頭あいさつで述べたもの。
隈部会長はまず、新型コロナによる生乳需給緩和と脱脂粉乳が過去最高の在庫水準にあること、ロシアのウクライナ侵攻による穀物市場の混乱、歴史的円安などで、酪農経営が「かつてないほど窮地に陥っている」と指摘。その上で「11月から期中、10円の乳価値上げになったが、現状の生産コスト上昇を補うには不十分であるし、値上げに伴う消費減退が危惧される。これらは今後、生・処・販、また国で、しっかりと取り組んでゆかねばならない。乳価の不足分については国からの支援も必要となってくる。全酪連としても酪農家に寄り添い、酪農家がしっかりとした経営ができるよう、酪政連と一緒になって要請していく。生産者としてもここは努力をするところであり、無駄のない経営をしながら国にはお願いをしていきたい」と呼び掛けた。
「政府、肥料高騰対策に788億円」――手続き簡素化、使いやすく
政府は7月29日、物価高騰対策として講じる節電と肥料支援に対して予備費で2571億円支出する方針を閣議決定した。このうち、肥料価格高騰対策には788億円を措置した。同対策は前年から当年の肥料コスト上昇分の7割を補填するもので、今回は08年の価格高騰時に実施した同様の対策をベースに見直し。化学肥料2割低減を目標とする点はそのまま、当年に取り組みが難しい場合も考慮し「2年間で取り組む農家」を対象となるよう期間を拡充したほか、申請や事務処理など手続きをより簡素化した。農水省としても同対策と合わせ、平時より堆肥等の利用拡大や広域流通、原料備蓄制度の創設等を進めていく方針としている。
同対策における化学肥料2割低減の取り組み要件は、土壌診断に基づく施肥設計や堆肥など国内資源の利用といった10以上あるメニューのうち、2つ以上の実施が必要。既に2つの取り組みを実施している場合は、新たに追加的な取り組みを実施すれば対象となる。
肥料コストの高騰が農業経営に大きく影響を与えている現状を受け、本年秋肥分への助成について農水省は「年内には払えるような環境にしていきたい」(農産局技術普及課)としている。
「4~6月期配合飼料、補てん発動1㌧当たり9800円交付」
全国畜産配合飼料価格安定基金など3団体はこのほど、22年度第1四半期(4~6月)の配合飼料原料の高騰に対し、㌧当たり9800円の補てん金交付を決めた。補てんの発動は6期連続。なお、異常補てんは通常、当該四半期の平均価格が基準価格の115%を超える場合に原則発動するが、価格高騰時においても異常補てんが発動しやすくなるよう、1~3月期に引き続き今期も特例基準(基準価格の112.5%以上)を適用する見通し。
当期の基準輸入原料価格は㌧当たり4万623円で、平均輸入原料価格は㌧当たり5万462円。その価格差に当たる9800円が補てん金として交付される。異常補てん金の単価は9800円の内数で決定する方針。原料のトウモロコシは7月末現在、6㌦前後とやや落ち着いて推移しているが、円安の進行や今後の産地における天候など先行き不透明な状況が続く。
「牧場で輝く家畜の命」連載⑮瀧見明花里さんの写真エッセイ

村上牧場(北海道せたな町)のブラウンスイス

母親になったキナコ
「産んでました!」スマホに表示されたメッセージを見て、慌てて宿を出発します。今日は、キナコ(5月1日号に登場)の初めての予定日。名付け親として出産を見守りに来ましたが、夜の間に元気な女の子を産んでくれました。
我が子に声をかけながら丹念に身体を舐め、子牛が寝ると一緒に座り、起きると自分も立ち上がって寄り添うお母さん。あの日のキナコがこんなにも成長し、今や母親になったと思うと感慨深いです。
夕方。初めての搾乳もすんなりと終え、夕陽に照らされる大きな身体に「お疲れ様」と手を添えて労いました。それから顎を撫でると、気持ち良さそうな顔で目を細めるキナコ。その手を止めると、優しくゆっくりと1歩、また1歩と近づき、その姿がまるで「頑張ったでしょ。もっと撫でて」とでも言っているかのよう。変わらぬ懐っこい性格にほっこりし、私のキナコびいきが更に加速したのでした。今後もキナコと子牛の成長を見守っていきたいと思います。(全酪新報では毎月1日号に掲載しています)
プロフィール
瀧見明花里(AKAPPLE)

農業に触れるためニュージーランドへ1年3ヶ月渡航。2017年より独立。『「いただきます」を世界共通語へ』をコンセプトに、牛、豚、鶏をはじめとする家畜動物を撮影、発表。家畜の命について考えるきっかけを届けている。
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