全酪新報/2020年4月10日号
「10年後の生乳生産目標780万トン」酪肉近――チーズ、生クリーム需要増で飲用向け横ばい見込む
農水省は3月31日、新たな酪農・畜産政策の指針となる「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(酪肉近)を策定。3月31日、閣議決定した。 10年後の2030年度の生乳生産目標数量を現行の728万㌧から52万㌧増の「780万㌧」に設定し、合わせて地域別目標も提示。北海道に関しては400万㌧以上と現行以上の目標値を定めた。一方、需要面では飲用向けは横ばいとなる一方、チーズ等の大幅伸長から乳製品向けは15.5%増との見込みで、需要見通しとしても780万㌧とした。
現状728万トン、支援策がカギ
酪肉近は10年後の生産目標、需要見通しなどを示すもので、今後の酪農・畜産政策の指針となるもの。農相の諮問を受けて、食料・農業・農村政策審議会畜産部会が議論する。食料自給率目標などを設定する食料・農業・農村基本計画見直しと並行して概ね5年ごとに見直されている。
今回の見直しでは10年後(2030年度)を目標として、生産目標数量をはじめ集送乳経費や乳業再編・合理化、家畜改良増殖目標等が見直された。
生乳生産数量目標は、これまでの食料・農業・農村政策審議会畜産部会(三輪泰史部会長)における議論で、生産者側からは生産意欲を後押ししつつ、達成可能な「現実味のある数量を求める意見があった一方で、乳業側からは国内需要への安定的な対応、生産意欲への期待等を踏まえ前回目標の750万㌧を上回る800万㌧を求める意見が出ていた。
検討を重ねた結果、2030年度の需要量は飲用向け、乳製品向けに加え、自家消費量8万㌧を合わせ、780万㌧と設定することとし、このうち飲用向けは、近年需要が微増傾向で推移していることから、現状(18年度)401万㌧とほぼ横ばいの400万㌧とした。
一方、乳製品向けは372万㌧に設定。これまでの議論であがった意見を踏まえ用途別目標を設定した。農水省は「チーズ・生クリームの需要の伸びを見込み、現状よりも50万㌧高く設定した」(畜産企画課)としている。
これらの結果、全国の生産目標数量は現状よりも52万㌧高い『780万㌧』に設定(地域別の生乳生産目標や飲用向け需要量は左の表のとおり)。このうち北海道は「418.0~462.0万㌧」、都府県は「322.8~356.7万㌧」となり、現状と比べて北海道は400万㌧を超える値が設定されており、全体の増産を支える形となっている。
一方、生産目標数量780万㌧を担う30年度時点の乳牛頭数は、自給飼糧基盤の地域差や乳牛の生産性向上、酪農経営の地域的動向等を考慮して2018年度時点と比べ、6千頭減の132万4千頭に設定した。
なお、食料・農業・農村基本計画では、10年後の牛乳・乳製品の国内消費量は18年度の1243万㌧/年間1人当たり96㌔から、1302万㌧/年間1人当たり107㌔まで増加するとみている。
お断り=本記事は4月10日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「新型コロナで緊急事態宣言、7都府県に」――農相「食料供給に万全」
新型コロナウイルスの感染拡大阻止へ、政府は4月7日、「緊急事態宣言」を発出した。1都6府県に対して不要不急の自粛や社会機能維持に向けた理解・協力を求めるもの。宣言を受けて江藤拓農相は、農水省として食料供給に万全を期していく考えを強く発信した。宣言の期間は5月6日までの30日間で、対象は特に急速な蔓延が懸念される東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県。江藤農相は消費者に対して、食料品は十分な供給量・供給体制を確保していることなどを説明した上で「国民の皆様への食糧の安定供給は、国にとって最も重要な責務だ」と強調。生産者、食品産業関係者に可能な限りの事業継続へ協力を呼びかけた。
また、今回の宣言を受け、大手乳業3社は牛乳・乳製品の安定供給に引き続き努める方針を改めて強調。「皆さまの生活を守るためにも可能な限りの対策を講じ、商品の供給の継続に努めていく」(明治HD)、「従業員の安全と健康に引き続き最大限配慮し、出来る限り商品の供給を継続すべく取り組んでいく」(森永乳業)、「安全で安心していただける牛乳・乳製品をお届けすることを念頭に、社会機能維持のために商品の安定供給に努めていく」(雪印メグミルク)とそれぞれコメントを発表した。
「生産者からコロナの影響聞き取り」農水省――佐藤組合長が酪農家支援を要請
農水省は3月31日、感染が拡大する新型コロナウイルスによる農林水産業への影響や対策について、9名の現場関係者から意見を聴取。酪農では北海道・伊達市農協の佐藤哲組合長(日本酪農政治連盟委員長)が出席し、同ウイルス禍による急激な需給緩和に懸念を示したほか、脱粉等の乳製品在庫や営農継続に向けたヘルパー確保、衛生資材等への支援を求めた。なお、同会合には江藤拓農相のほか、両副大臣、両政務官も出席した。同会合は同ウイルス禍の感染が拡大する現在の状況を鑑み、テレビ会議システムを利用した会議として実施された。
冒頭挨拶した、江藤農相は「現場の意見をしっかり聴いた上で経済対策をまとめるべく、機会を設けた。安倍晋三首相からも『前例にとらわれず強大な対策をやるように』と指示を受け、各局からも思い切ったアイディアが上がったが、農林漁業者の意見が反映されなければ意味がない。遠慮なく、率直な意見をいただきたい」と求めた。
佐藤組合長はこのほどの一斉休校に対する支援策等について触れ、「生産過剰を危惧していたが、今回の支援や家庭消費の増加により現場の影響は最小限に抑えられている」とする一方、以前より高水準にあった脱粉在庫については「指定団体と乳業が協力して需給調整を行っているが、インバウンド減退やイベント自粛により想定以上に積み上がっている」と指摘。
今後の動向について「増産の兆しが見え、今後需要期を迎える中で一気に需給緩和が起これば、大量の生乳廃棄や基盤弱体化もあり得る」と危機感をあらわにした上で、ヘルパー確保支援など必要な対策の措置を強く求めた。
また、和牛一貫経営の興梠哲法さん(宮崎県)は「出荷制限につながりかねない状況にまで悪化している。肥育農家の収入確保ができない中、子牛相場も下落し、繁殖経営は危機的状況にある。地元では子牛価格が15万円も下落した」と苦しい現場の窮状を説明。ふるさと納税の返礼率の向上など、国産牛肉の消費を促す支援策を要望した。
このほか、肥育農家から牛マルキン事業の一定期間の納付免除措置を求める声もあった。
「20年度の交付対象数量、88事業者に343万トン配布」――ホクレン等は大きく増加
農水省は4月1日、畜産経営の安定に関する法律(改正畜安法)に基づき、2020年度の加工原料乳生産者補給金の交付対象数量(345万㌧)を19年度同様の88事業者に対し、343万1644㌧配分した。前年度に引き続き、従来の10指定団体を含む第1号対象事業者への配分が大部分を占め、同対象事業者の内訳にも変更はない(表参照)。数量については、ホクレンなど北海道の事業者においては生乳生産量の増加や需給状況等を背景に、交付対象数量の配分も大きく増加した。
各事業者の配分は、第1号対象事業者(生乳を集めて乳業に販売する事業者)は13者に342万3988.6㌧、第2号対象事業者(乳業に直接生乳を販売する酪農家)は52者に6125.6㌧、第3号対象事業者(乳製品を加工販売する酪農家)は27者に1529.8㌧を配分した。
第2号対象事業者と第3号対象事業者は一部重複もあるため、延べでの対象事業者は92者になる。
このうち、第1号対象事業者は従来の10指定団体に加え、サツラク農協、カネカ食品㈱、㈱MMJを合わせた13者で、前年度と変更はない。
交付対象数量に関しては、ホクレンが314万9963㌧で13万7726.4㌧増となったのと同様、北海道札幌市のサツラク農協は1176.3㌧増の6777㌧に。カネカは前年度同数で、MMJは4741.5㌧減の2067.7㌧の配分となった。
2020年度加工原料乳の生産者補給金第1号事業者
事業者名 対象数量(㌧)
ホクレン 3149963.0
サツラク農協 6777.0
カネカ食品 940.0
MMJ 2067.7
東北生乳販連 58064.0
関東生乳販連 87190.3
北陸酪農協連 2281.9
東海酪農協連 13909.1
近畿生乳販連 1106.0
中国生乳販連 13061.3
四国生乳販連 1845.1
九州生乳販連 86715.2
沖縄県酪農協 68.0
計 3423988.6
「全酪連が狭山工場の事業を譲渡」チーズ等事業――マリンフード(株)に
全酪連は4月1日、狭山工場(埼玉県狭山市)におけるチーズ事業をマリンフード㈱(大阪府豊中市)へ譲渡することで合意したと発表した。この度の事業譲渡は収支改善の一環で、同工場ではプロセスチーズを中心に製造していたが、今後はマリンフードへ全酪連ブランドの製品の製造を委託して販売は継続する。譲渡時期は今後双方で協議を進めていく方針。