全酪新報/2020年1月1日号

「都府県生産基盤強化が最大の課題」砂金全酪連・全酪協会会長に新春インタビュー――解決に生産者団体の合理化必須

2020-01-01

今年3月、10年後の2030年を目標年度とする新たな酪肉近代化基本方針が策定される。依然として課題が山積している中、今号では、酪農団体を代表して全酪連と全国酪農協会の砂金甚太郎会長に課題の解決のために何が求められるか、今後の日本酪農を担う若い酪農家へのメッセージを聞いた。砂金会長は「都府県の生産基盤強化が最大の課題」とし、生産者団体の合理化も必須であると指摘した。酪農後継者にはゆとりを得るためにも可能な限り作業の外部化や合理化を進めるべきと強調する一方、「やり方次第で酪農ほど面白い仕事はない」と呼び掛けた。

――酪農を取り巻く現在の課題は何か。


まず、第一に都府県の生乳生産量の減少に歯止めがかからないことが大きな問題だ。生産者も乳業も都府県の生乳生産基盤の弱体化に大きな危機感を持っている。


都府県の生乳生産量はピークだった1990年代初頭には500万㌧を超えていたが、2018年度は330万㌧まで減少した。今年度はさらに減少が見込まれる。一方、北海道を見ると、多少の増減はあるが、380~390万㌧の間で推移し、10年度には都府県の乳量を超えた。その差は年を追うごとに拡大している。


都府県の生乳が不足すると北海道から運んでくることになるが、北海道の移出能力には限界があり、輸送コストの問題もある。一部で北海道産生乳をブランド化した牛乳があり、その分の生乳は定期的に必要だが、今は最需要期に限らず、恒常的に都府県の生乳が足りないため、北海道から生乳を輸送している。しかし、元来、都府県で需要を満たすことができれば、コストをかけてまで北海道から輸送する必要がない。コストがかかるということは、どこかで誰かが損をしているということだ。


もう一つの課題は、国内の生乳需要を満たせていないことだ。現在、生乳換算で1230万㌧の需要があるが、供給量は730万㌧ほど。その差500万㌧は輸入乳製品で補っている。一時的に足りない分は輸入すればいいが、輸入が常態化してしまうと、我々の先輩方が築き上げ、今まで数十年間培ってきた良質な生乳生産に対する努力が水泡に帰すことになる。その結果、国民は日本で生産された安全で安心な乳製品を食べられなくなってしまう。


――課題を解決するためには何が必要か。


我々全酪連や全国酪農協会を含めた生産者団体の合理化が必要だ。賦課金団体が多過ぎる。そのことが改正畜安法の施行により、部分委託といったいいとこ取りが発生する要因にもなっている。指定団体のさらなる機能強化が求められる。


その一方で、都府県の生産基盤を強化するためには、酪農専門農協を県段階で一本化し、組織を強化した上で営農・指導体制を充実させるべきだ。全酪連は引き続き、北海道預託や若齢預託牧場によって後継牛確保を推進し、酪農家が飼養管理に専念できる環境を作りたい。必要な施策は酪政連と連携し、国に求めていく必要がある。全力で取り組みたい。


また、乳業の合理化も必要だ。もちろん、全国各地域に乳業工場があるべきだ。しかし、大手、中小、農協系という括りに限らず、乳業工場が多過ぎる。そのことが牛乳安売りの要因にもなっている。今後、日本は高齢化が加速し、人口が減少すると、経営が厳しくなる。経営を継続できなくなれば、結果的に生乳を供給する酪農家が困ることになってしまう。


一方、酪農経営に目を向けると、後継者や新規就農者が不足している。忙しすぎて子どもの授業参観に出席できないような酪農では、今の若い人たちは就農しようとは思わないだろう。そのためにも、省力化は必要だ。


酪農には種付けや分娩など、どうしても人の手でなければできない部分がある。しかし、コントラクターやTMRセンターを活用し、搾乳に特化する経営スタイルもある。そういった外部化組織がなく、自分で粗飼料を生産するならば、搾乳ロボットを導入して搾乳作業を合理化する方法もある。そのように、作業の外部化や合理化を進めれば、生活に余裕が生まれるだろう。


ただし、搾乳ロボットは非常に高価なもの。1台1千万円以下でも導入できるよう、政府に支援を求めることも一つの手ではないか。また、近年は鳥獣被害が拡大し、粗飼料生産を邪魔している。一所懸命粗飼料を生産している酪農家のためにも、対策を強化していただきたい。言うまでもなく、酪農ヘルパー制度は後継者を確保するためにも拡充しなければならない。


――若い酪農家にメッセージを。


国際化の進行や今後の乳価形成など将来の展望は見えにくい。しかし、酪農経営には、飼料設計や粗飼料生産、繁殖、衛生管理、改良など様々な要素があり、そこを工夫すれば経営が大きく変わる。それらがうまくいけば、酪農ほど面白い仕事はない。


また、牛乳や乳製品を自ら製造・販売する6次産業化への取り組みでうまく所得を確保している酪農家もいる。やり方次第で所得を増やすことができることが酪農の大きな魅力だ。


今までもこれからも、家族型経営は日本の酪農の中心であることに変わりはない。しかし、場合によっては、自分の経営だけではなく、地域の仲間との共同作業や共同で牧場を立ち上げることも必要ではないか。国の後継牛増頭支援対策もフル活用すべきだ。仲間と知恵を絞り、汗をかいて頑張ってほしい。

お断り=本記事は1月1日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。

「後継牛増頭に27万5千円支援」2019年度補正予算――畜産クラスター、家族経営向に対し要件緩和

2020-01-01

政府は12月20日、総額5849億円となる2019年度農林水産関係補正予算を決めた。このうち酪農関連では、和牛・乳用牛の増頭・増産対策として243億円を計上。畜産クラスター計画に基づき「中小規模経営」が乳用後継牛を増頭する際に、1頭当たり27万5千円の奨励金を交付するメニューを新たに措置したほか、畜産クラスター事業では中小規模・家族経営でも増頭や規模拡大が図れるように規模拡大要件を緩和した。このほか関連の事業と合わせ、都府県の生産基盤強化を後押ししていく方針だ。


同補正予算のうち、日米貿易協定の発効を見据えて改訂された「総合的なTPP等関連政策大綱」の関連予算には3250億円を措置。うち酪農では、増頭奨励金をはじめ、公共牧場・試験場等のフル活用、乳用後継牛確保のための性判別精液の活用等を支援する。


畜産クラスター事業は409億円で、2018年度補正予算の560億円より減額したが、増頭・増産対策と合わせると2018年度補正を上回る形になる。19年度補正では、中小規模の規模拡大に向け、規模拡大要件を現行の「地域の平均規模」から「概ね北海道を除く全国平均」等に緩和。国産チーズの競争力強化対策は150億円と今年度補正と同額で、メニュー上では大きな変更はない。


なお増頭奨励金に関しては、対象となる飼養頭数規模や1戸当たりの上限などの枠組みについては現在検討中だが、詳細が明らかとなるのは、1月に召集される予定の通常国会が開会以降となる見通し。

「全酪連1~3月期、配合飼料価格1㌧当たり850円値上げ」―― シカゴ相場、海上運賃が要因

2020-01-01

全酪連は12月20日、2020年1~3月期の牛用配合飼料価格を前期(10~12月期)に比べ、全銘柄平均1㌧当たり850円値上げすると発表した。原料であるトウモロコシや大豆粕などシカゴ相場の値上げに加え、海上運賃の上昇、円安の進行が主な要因。


一方、牛用哺育飼料は1㌧当たり5千円値上げする。主原料の脱粉はオセアニアでの長期干ばつの影響で生産量が減少したことに加え、新興国などの旺盛な需要による国際相場の上昇が主要因。


また、JA全農は20日、1~3月期の配合飼料価格を全国全畜種平均1㌧当たり約700円値上げすると発表した。改定額は地域別・畜種別・銘柄別に異なる。

「初妊牛価格強含み、75~85万円」全酪連・乳牛産地情報――育成牛、経産牛も堅調

2020-01-01

全酪連札幌支所によると、1月1日現在の初妊牛価格は75~85万円で強含みと見ている。1月の初妊牛は3~4月分娩予定の春産みのため需要が高く、資源は豊富にあるが、道内のギガファームの導入意欲が活発。そのため、強含みだった12月よりもさらに強く推移する見込みで、腹別での大きな価格差はなくなってきている。


また、育成牛(10~12月齢)は40~50万円で強含み、経産牛は47~57万円でやや強含みと堅調に推移する見通し(各管内の動向は10面に掲載)。


相場は血統登録(中クラス)の庭先選畜購買による予想。庭先選畜勾配のため市場平均価格とは異なる。

「中酪・台風等の義援金、指定団体に5200万円贈呈」――関東中心に被害状況で配分

2020-01-01

中央酪農会議は12月19日に理事会を開き、豪雨・台風被害を受けた酪農家を支援するために募っていた一般消費者からの支援金と酪農家・関係組織等からの義援金合計5159万1302円(うち、雪印メグミルクグループ、森永乳業からの各1千万円を含む)について、被害状況に応じて6指定団体に贈呈することを決定。最も被害が大きかった関東生乳販連には約4346万円を20日付で送金した。

「新年特別企画は魅力発信で価値向上へ」を企画

2020-01-01

国際化の進行や酪農家戸数減少などを背景に酪農生産基盤の強化が喫緊の課題になっている。一方で、生産現場では、6次産業化をはじめ理解醸成活動など酪農の価値向上や牛乳・乳製品の魅力発信の取り組みが行われている。今号では、小森崇宏さん(栃木県那須烏山市)に酪青女活動の意義、山田政晴さん(熊本県西原村)に店舗展開にかける思い、西山厚志さん(茨城県稲敷市)に国産乳製品の魅力や今後の展望などについて話を聞いた(詳細は本紙で)。

連絡先・MAP

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(指導部・全酪新報編集部)
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