全酪新報/2019年12月1日号
「酪政連、酪農ヘルパー事業の拡充求める」――都府県の生産基盤対策も
酪政連(大槻和夫委員長)は11月20日、東京・永田町の自民党本部で中央委員会を開き、2020年度畜産物価格と関連対策に関する要請事項について協議した。特に中小規模・家族型酪農に対して、担い手確保のために必須である酪農ヘルパー事業の拡充のほか、いいとこ取りを防ぐための改正畜安法の運用見直し、弱体化が進んでいる都府県酪農の生産基盤対策などを求めることを再確認した。相次ぐ台風による停電で生乳流通が混乱したことを踏まえ、クーラーステーション(CS)への発電機の導入支援も緊急要請する。
12月第2週に畜産物価格・関連対策の決定が見込まれる中、全国から約60名の委員らが出席。会合の冒頭、大槻委員長は「大半の生産者が指定団体を通じて生乳を出荷し、日本の牛乳・乳製品が動いている。改正畜安法が施行して2年目を迎え、そのことをもう一度、見直す時期に来ている」と強調した。
また、台風による停電・水害で甚大な被害を受けている昨今の状況については、「農業の中で最も風水害を受けるのは、広大な面積を持っている酪農だ。被害は甚大になるが、飼料への補助はなかなか難しい。しかし、牛の飼料は人間のコメと同じ。政府にはそのくらいの感覚を持ってもらわないと、粗飼料を作る人はいなくなってしまう。支援を求める活動を展開していきたい」と述べた。
酪政連は要請事項の中で、畜産物価格については、加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金単価は、経営意欲と担い手確保を促す価格を求める。
関連対策においては、多くの委員から意見が出た酪農ヘルパー事業について、家族型経営の経営継続、担い手確保のためには必須であることを強く訴える。また、部分委託や年度途中での契約破棄など、一部で見られる、いいとこ取りに関しては、生産者間の不公平感を回避するための改正畜安法の適正な運用と的確な対応も求める。
そのほか、①老朽化が著しい家畜排せつ物処理施設の整備・補改修への支援継続②風水害の最小化と復興の最短化への支援③特に弱体化が懸念されている都府県の生産現場に則した生乳生産基盤強化・働き方改革対策④国産粗飼料の増産・利用拡大への支援⑤鳥獣被害に縮減化⑥産業獣医師確保への支援――などを求めて運動を展開する。
さらに、全国的に多発する自然災害対策として、酪農家のみならず、停電による生乳流通の混乱を防ぐためにもCSへの非常用電源の導入支援も要請する。
閉会に当たり、佐藤哲副委員長は「要請活動を止めると、問題が解決したと思われてしまい、言い続けないと忘れられてしまう」と継続的な運動の重要性を強調した。
お断り=本記事は12月1日号をベースにしておりますが、日々情勢が急変しており、本ホームページでは、通常の態勢を変えて本紙記事にその後の情報も加えた形で状況を掲載するなど、一部記事の重複などが生じることもあります。ご了承ください。
「自民党酪政会、都府県の増産対策が最重要」――小規模向け支援へ意見相次ぐ
自民党酪政会(森英介会長)は11月20日、党本部で総会を開き、2020年度の畜産・酪農関連対策や当初予算等をめぐり議論した。その中で、国内の生乳生産基盤の維持・強化に向け、森会長は「都府県の増産対策が『最重要課題』だ」との認識を示し、関係者の要望をふまえた上で必要な予算の確保、体制構築へ議論を重ねていく姿勢を強調した。このほか、施策上の規模拡大要件の緩和をはじめ、20~30頭飼養にも見合う発電機の導入支援など、小規模の家族経営でも営農が継続できるような対策・対応が欠かせないとの意見が相次いだ。会合には51名の自民党酪政会の会員議員が出席した。
総会の冒頭、森会長は昨今の台風被害等の自然災害に対する支援策の必要性について言及。その上で、北海道が増産する一方、都府県の生産基盤弱体化に歯止めがかからない状況が続く現状をふまえ、「都府県の増産対策が『最重要課題』だ。そういったことも含め、皆様の要望に沿うように努力を重ねていきたい」との意向を強調した。
会合には、日本酪農政治連盟の大槻和夫委員長も出席。生乳廃棄等の被害をもたらした台風の影響を踏まえて、小規模酪農家でも活用しやすい形で非常用発電機の支援を充実するよう強く要望した。その他、たい肥舎への支援、外国人の雇用もふまえた酪農ヘルパー事業の環境整備、災害時の粗飼料対策の充実等への理解・協力も求めた。
議員からは小規模の家族経営酪農家に対する支援策の拡充が不可欠との意見が続出。その中で、都府県の生産基盤の弱体化をめぐり、簗和生衆議(栃木県第3区)は「もう規模拡大要件を取り払うしかない。(規模を)現状維持でも、減らしてもしっかり支援していく体制を作らないと絶対にこれは止まらない」と指摘。小規模経営に向けた支援策の充実を図る必要性を強調した。
そのほか、議員からは「農水省には中小企業庁(経産省内)が無い。最近は『大規模化』とか『効率化』とかばかりで、小さな酪農家をちゃんと守るという発想が農水省にもあっていいのではないか。ぜひそのような目をもって対応し、小さな酪農家も営農継続できるような配慮をお願いしたい」(上月良祐参議、茨城県)、「70頭飼養ぐらいだったら発電機を持とうとなるものの20~30頭だと中々難しい。グループ化も1つだが、もっと安い発電機を開発できないものか。単に補助するだけでなく、小規模でもランニングコストが掛からないような中期的な対策を多面的に考えてほしい」(葉梨康弘衆議、茨城県第3区)などの意見があった。
これらの意見に対し、農水省の渡邊毅畜産部長は「中小の酪農家をしっかり支援するという意見は非常に大切だ。そのための支援をどうするか、何ができるかを農水省としても検討していきたい」とした上で、都府県対策に対して必要な措置を講じていく姿勢を示した。
「坂本衆議、指定団体の強化が不可欠」――都府県対策めぐり強調
11月20日に開かれた自民党酪政会総会の中では、坂本哲志衆議(熊本県第3区、元畜酪委員長)は都府県対策をめぐり「指定団体を維持ではなく『強化』していくことが重要だ」として、都府県の生乳増産に向け、指定団体制度・機能の一層強化が欠かせないとの考えを強調した。再編も含め、早急かつ効果的な対応を講じていく必要があると訴えた。
会合で、坂本衆議は生産基盤の弱体化が進行している都府県酪農の現状に対して強い危機感を示し、「都府県酪農がどうしたら少しでも生き残れるか、生乳生産を増やせるかは、やはり指定団体を維持ではなく『強化』していくことが重要だ」と指摘。
その上で「指定団体や酪連の再編も含め、その在り方を考えていかなければならない。そして、そこに国の支援を十分に行っていくことで、各酪農家への支援体制が構築されると思う。(中央団体と一緒になって)私どもも全力で応援していくので、一緒になって考えていきたい」と述べた。
「家族経営支援に全力尽くす」――全酪協・砂金会長が強調
全国酪農協会(砂金甚太郎会長)は11月21日、都内に会員・関係団体の役職員ら約60名を集め、酪農基本対策委員会を開催した。砂金会長は冒頭挨拶で「来年度の政策決定を控える中、酪政連と一体となって家族型経営を維持するための支援対策、都府県の酪農対策について全力を尽くしたい」と述べた。
Jミルクがこのほど発表した「10年後の生乳生産目標数量775~800万㌧」とした提言について、砂金会長は「難しいと思うが、若い世代の酪農家に夢を持って頑張っていただきたいという観点からはいいことだ。そのためには、業界が力を合わせて頑張らなければならない」と出席した生産者団体の代表者らに呼び掛けた。
また、「我が国酪農は国内外に大きな課題を抱えており、重大な岐路にあるという危機感がある。国内の牛乳・乳製品需要は約1230万㌧あり、そのうちの約500万㌧の乳製品を輸入している。何としても国内の生乳生産を維持しなければ、国民の健康や食生活にとって大きな損失になる」と警鐘を鳴らした。
同委員会では、北海道大学農学研究員基盤研究部門農業経済学分野食料農業市場学研究室の清水池義治講師が「北海道と都府県の均衡ある発展を目指して」と題して講演したほか、農水省牛乳乳製品課の丹菊直子課長補佐が酪農をめぐる情勢を報告した(講演内容は今後紹介)。
「2019年度農林水産祭式典、石川ファーム(北海道津別町)が天皇杯を受賞」
農水省と日本農林漁業振興会は11月14日、東京・代々木の明治神宮会館で2019年度農林水産祭式典を開催し、畜産部門の天皇杯に選出された酪農家の㈲石川ファーム(石川賢一代表・北海道津別町)を表彰した。石川さんは、試行錯誤の上、有機飼料栽培技術を確立し、05年から完全有機に転換した。また、有機畑作農家と連携し78%と高い飼料自給率を達成。TMRセンターの活用やGPSと自動操舵による飼料作物の播種作業を行うなど労働時間は1日5時間と高収益でゆとりある経営を行っている点が高く評価された。
式典には安倍晋三首相のメッセージとして「受賞の皆さまは長年にわたり農林水産業に情熱を注がれ大きな功績をあげてこられた。その先進的な経営手法により産地の活性化と発展に多大な貢献をされた。このような取り組みが模範となり全国各地に広がれば活力と豊かさをもたらし強い農林水産業と美しく活力ある農山漁村が実現できると確信している」と読み上げられた。
「藤田亘彦さん(北海道別海町)が黒澤賞に輝く」――第71回日本酪農青年研究連盟
日本酪農青年研究連盟(山下博委員長)は11月20日、千葉県成田市で第71回日本酪農研究会を開催した。6名の酪農家が経営概況や将来展望などを発表した結果、最優秀賞の黒澤賞には藤田亘彦さん(北海道別海町)が選ばれるとともに、豊かな生活を実現した発表事例に贈られる太田賞も合わせて受賞した。大会には酪農家など関係者約300名が出席した(受賞者の発表概要は次号以降掲載)。
非農家出身の藤田さんは、07年に別海町で新規就農。導入牛の高齢化に伴う疾病多発や繁殖成績の悪化など経営上の苦労もあったが、父子家庭ということもふまえて家事との両立を目指し、より省力化を進めるべく放牧酪農へ転換した。現在は個体乳量8500㌔に加え、乳飼比改善、疾病ロス減少など経営が安定。労働時間及び1時間当たりの所得も道平均を上回っている。
本大会の審査委員長を務めた秋田県立大学生物資源学部の鵜川洋樹教授は、藤田さんの経営改善までの決意と実現性を高く評価。「家事との両立のため、1人でも短時間で実施可能なスケジュールを確立し、放牧転換による省力化と飼料費コストの低減、乾草利用と補助飼料による乳量維持に取り組み、個体乳量維持と乳飼比の削減を実現している。また、作業効率化と一部委託によりワンマン体制を確立し、1日当たりの労働時間は平均8時間(非繁忙期6時間)に。発表者の中で最も時間当たり所得は高く、生乳生産原価も低い」と講評した。
藤田さんが今回受賞した太田賞は、酪農界の発展に多大な貢献をされた酪青研初代委員長の太田正治氏にちなんだもの。従来は女性発表者の中で特に優秀な発表に贈られていたが、今大会より男性も含める形に対象を拡大した。